このところ、一部の大手私鉄が障害者割引を精神障害者にも行う予定(または検討)を発表しているようです。
2023年6月現在、名鉄・京王・京急・南海が2023年10月からの精神障害者への割引を予定・検討しているようです。
ここにきてなぜ精神障害者への割引を決めたのか、そこにはあるパターンがあります。
導入予定の会社にある2つのパターン
前述の通り、名鉄・京王・京急・南海がすでに発表し、すでに実施済みの近鉄・西鉄を含めると6社に及びます。
では、実施予定・検討中の各社の現在の障害者割引制度はどうなっているかというと・・・
実は各社とも1級・介護者ありは距離にかかわらず50%割引・それ以外は101キロ以上で50%割引という、横並びの状態です。
これは直通を含めた距離です。
いったいなぜ精神障害者への割引を実施することになったのか・・・
それは「割引したとしても大して影響ない」からです。
影響ない理由は次の二つのパターンどちらかが考えられます
自社区間だけで101キロもない
これは京急・京王が該当します。
京急は87キロしかなく、直通先の都営地下鉄・京成・北総・芝山の各鉄道会社には現状のところ精神障害者への割引がありません。
そのため、京急では精神障害者手帳1級のみを対象としています。
京王もまた84,7キロしかなく直通先の都営地下鉄では精神障害者への割引がないことから、各社とも1級のみが対象となると思います。
101キロ以上の区間の需要が極めて少ない
これは南海・名鉄が該当します
南海・名鉄とも大都市への移動需要が主で、101キロ区間が双方とも大都市から大きく離れているためか、割引したところで大して需要がないと判断され、精神障害者への割引を実施(検討)に踏み切ったのでしょう。
実際・南海は南海線と高野線を跨いで移動すれば101キロは超えることができますが、いずれも大都市である大阪からは距離が離れすぎているため、実際の利用者はかなり少ないのではないかと思います。
名鉄に至っては、およそ444.2キロの総延長でありながら、すべての路線が大都市である名古屋から101キロ以内に収まっているため、よほどの物好きでない限りは101キロ以上の切符を買って乗ろうなんて思う客がいるのか見当もつきません。
この場合、2級・3級でも101キロ以上であれば割引を行う予定ですが、路線の利用実態からしても大して影響が出ないのではないかと判断されて、精神障害者への割引を考えたのではないかと思います。
導入のハードルは「収益に影響があるか」
では、そのほかの各社では導入が進むのかというと、それはあまり期待できません。
というのも、上にあげた例はいずれも収益に影響が出ないと判断されて導入しているためで、影響が出るなら導入しないのはある意味当然のことです。
100キロを優に超え、長距離の移動需要が大きいJR各社、自社路線だけで100キロを超えない相鉄・阪神・阪急、100キロは超えていても100キロを超えた運賃の設定がない京成・東急・小田急・西武、100キロ以上の区間が大都市と観光地を結ぶ区間になっている東武などは、導入するメリットがないまたは影響が大きい会社が多いです。
しかし、同じ状況である名鉄、京王、京急、南海が精神障害者への割引発表や検討をしている以上、何らかの対応は行う必要はあるでしょう。
本命はJR。だが・・・
実のところ、障害者割引のメリットは長距離利用の費用負担が軽減されることにあります。
多くの障害者は収入がなく、さらにそのほとんどが生活保護や年金に依存しています。
自ら望んだわけでもないのに障害を負ってしまい、そのせいで仕事ができない状態になっている障害者にとっては長距離移動など夢のまた夢、ましてや短距離移動さえも満足に運賃が支払えないという状況では、家の中に引きこもるのも無理はありません。
そのために、国は障害者割引を精神障害者にも適用するよう鉄道会社に働きかけてきたものの、「収益が減る」「国が費用を出すべき」と言って、今まで精神障害者への割引を拒み続けました。
その後、コロナ過もあってか、運賃改定を行う際に国から働き掛けを行ったこともあったのか、突然急に障害者割引の拡大を発表したのです。
しかしJR場合、大手私鉄とは事情が異なります。
- 100キロ以上の長距離移動ができる
(最も短いJR四国でも実に853.7キロもある) - もともとは国鉄の分割民営化で誕生した会社のため、レールがつながっており、自社の都合で運賃制度を決められない
このため、障害者割引を行うと収益に悪影響を及びかねず、むしろ(学割も含め)全面的に廃止したいと思っていたりもします。
そのためJRは「公的負担がない限り行わない」という姿勢であり、国がお金を出さない限り障害者割引の拡大は期待できません。
健常者からすると”不公平”
「障害者だから」という理由で割引される制度については、障害者からは歓迎されますが、残念ながら健常者から見た場合、以下の理由で「単なる優遇」に見られてしまいます。
- 介助が必要なのは障害者だけではない
高齢者も介助が必要な人がいる。何なら事故等で一時的介助が必要(松葉杖など)な方もいるにもかかわらず、障害者だけが割引されている。 - 収入がないのは障害者だけではない
年金生活の高齢者だけでなく、子育てしながら育てているため労働時間等に制約があるひとり親家庭、さらには不本意な形で低収入になってしまった氷河期世代の健常者など、収入がない人が多いにもかかわらず障害者だけが割引されている。
(特に氷河期世代は障害者を「社会保障費を食いつぶす存在」として忌み嫌っており、その分ヘイトがすさまじい) - 障害者割引を行う理由の一つにもなっている「社会参加」の定義が不明確
障害者割引を行う理由の中に「社会参加を促す」というものが含まれているが、この「社会参加」とは何かが全く分からないままとなっており、ややもすると”障害者が性風俗に行くのも社会参加”という理屈が成り立ってしまい、健常者から非難の声が上がる。
いずれにしても、みんなが納得できる答えを出すには、上記3つの問題にどうこたえるかを決めておかないと、障害者割引を拡大する分障害者を苦しめる格好になりかねず、むしろ障害者が”サポートの対価”として運賃とは別に料金が払うべき、という氷河期世代からの要求をのまざるを得ません。
解決策は”目的に応じて行政が負担する”
結局のところ、解決方法は”目的に応じて行政から運賃を負担する”という方法しかないと思います。
障害者だからという理由で障害者割引を行うと健常者から非難されかねず、遊びに行くなど言語道断。かといって障害者割引を行わないと障害者が生活ができなくなる。
この矛盾した問題を解決するには、通院や施設への通所の目的にのみ行政から交通費を給付する制度にする以外に方法がありません。
これなら、健常者もギリギリ納得できるはずです。
そうでない限りは、健常者からの非難の声が上がるだけです。