障害者割引の拡大が続く中で、2023年9月5日に東急が精神障害者割引の導入を発表しました。
1級かつ同伴者ありの限定的ではありますが、10月1日より開始するとのこと。
ここでは、障害者割引拡大の地域別の事情を3大都市圏を中心に解説します。
関東地方
首都圏の南部で進む障害者割引の拡大
以前取り上げた通り、10月より京王や京急が障害者割引を拡大させると発表ましたが、ここに東急が加わると、東京から横浜・多摩・八王子・高尾までが障害者割引の対象となり、一気に移動範囲が拡大されます。
東急・京急・京王はいずれもJRと対抗心をむき出しにしており、競合路線よりも多くの乗客獲得にまい進する傾向があります。
(東急は湘南新宿ライン、京王は中央線、京急は東海道線がライバル)
一方そのほかの大手私鉄では、JRと何らかのかかわりがある、またはJRとはそれほど競合しないなど、導入するだけのメリットがない場合もあります。
- 小田急は直通先の一つがJR常磐線各駅停車
- 西武はJRとそれほど競合していない
- 東武はJRに直通する特急列車がある
- 京成は成田空港の線路・駅をJRと共有している
- 相鉄は直通先の一つがJR埼京線
このため、JRが態度を変えないことには障害者割引の拡大が期待できないと思います。
宇都宮ライトレール開業の思わぬ効果
8月26日に開業した芳賀・宇都宮ライトレール。開業当日は膨大な数の乗客で大賑わいでしたがこの路線でも精神障害者の割引があります。
一方、宇都宮市を中心にバス事業を運営する関東バス(関東自動車)では、かつては精神障害者の割引はありませんでしたが、7月1日から精神障害者の割引を開始しました。
宇都宮市ではライトレール開業を機に公共交通の再編を行っており、この機会に障害者割引の拡大を行った模様です。
障害者割引拡大の思わぬ効果です。
関西地方
徳島から名古屋までの移動が大幅に安くなる。
これまで障害者割引を行ってこなかった近鉄と南海がそろって精神障害者の割引を開始したことで、長距離の移動が大幅に安くなり、さらに移動距離が拡大されます。
私もよく調べていませんでしたが、身体障害者と知的障害者の場合、南海電車と南海フェリーと乗車距離を通算できるようで、実際に南海・難波から南海フェリー・徳島港までの距離は128kmとなり、電車・フェリーともに障害者割引が適用されます。
精神障害者にも同様の割引が適用される場合、徳島駅から南海・近鉄大阪難波駅を経て近鉄名古屋駅までが障害者割引の対象となります。
その結果、料金差は以下の通りとなります(10円以下は切り上げとなるため、50%にはならない場合もあります)
乗車区間 | 運賃(割引前) | 運賃(割引後) | 参考:追加料金(特急料金等)※割引なし | |
近鉄電車 近鉄名古屋→大阪難波 | 2,860円 | 1,430円 | 1,930円※1 | |
南海電車 南海難波→和歌山港 | 970円 | 490円 | 520円 | |
南海フェリー 和歌山港→徳島港 | 2,500円 | 1,250円 | 500円※2 | |
徳島市バス 徳島港(南海フェリー前)→徳島駅 | 210円 | 110円 | 0円 | |
合計 | 6,540円 | 3,280円 | 2,950円 |
※1 ひのとり利用の場合はレギュラーシートが+200円、プレミアムシートが+900円追加
※2 繁忙期は1,000円
これにより、運賃はほぼ半額になり、参考とした追加料金を含めた場合でも35%割引となります。
ちなみに、乗換案内で調べた場合、名古屋駅→新幹線→新神戸駅→高速バス→徳島駅のルートが最速となりますが、運賃はなんと7,670円で障害者割引が適用されません。倍以上しますね。
また、高速バスの場合、名古屋→徳島間の夜行高速バスがありますが、こちらは5,000円~9,000円となります。
有料列車に一切乗らないのであれば、近鉄電車ー南海電車・フェリールートが最安となります。ただ、時期によっては長距離移動となる近鉄電車にて特急を利用しても安くなる場合があります。(3,280円+1,930円=5,210円)
東海地方
障害者割引非対応の鉄道会社が少数派に・・・
来年春に名鉄が精神障害者にも割引を行うことを発表し、また近鉄はすでに実施していることから、来年春の精神障害者への割引開始以降は、以下の各社が精神障害者への割引に非対応となります。
- JR東海
- 伊勢鉄道(もとは国鉄伊勢線・JRと直通あり)
- 愛知環状鉄道(もとは国鉄岡多線・JRと直通あり)
- 城北線(JR東海の子会社である東海交通事業が運営)
- 豊橋鉄道(現在運営している渥美線は元々名鉄が運営していた路線)
豊橋鉄道以外はJRと何らかの関係がある会社で、関東地方の例と同じく、JRの態度が変わらない限りは障害者割引の拡大は期待できないと思います。
一方で豊橋鉄道については、現在でも名鉄の子会社であることから、親会社と同様に障害者割引の拡大が期待できると思います。
その他の地域
BRTひこぼしラインの奇妙な障害者割引
2017年の九州北部豪雨で運休して以降、自治体とすったもんだがありながらもBRTとして復旧した日田彦山線。
BRTとしては精神障害者でも割引は対応していますが、ホームページの記述では・・・
日田彦山線BRTには「精神障害者割引」の設定がありますが、当社の窓口では取り扱いません。
とあります。
これはJRが精神障害者の割引を行っていないため、駅での割引乗車券が購入できないことによるもので、BRT単独では精神障害者でも割引を行っていることから“車内で支払ってほしい”とのことです。
このため、身体障害者や知的障害者で可能な乗り継ぎ割引(100円割引)ができず、さらに割高になります。また距離が通算されないために、途中下車も認められず、途中でBRTを降りるとなおさら高額となります。
フリー切符もありますが、購入は「my route」アプリで行う上にクレジットカードが必要など、障害者にはムリゲーなフリー切符で、鉄道に関してはおとなしく普通運賃を払い、BRTでは利用区間ごとに毎回割引運賃を払うしかありません。
今後も拡大するか?どうも期待できなさそう。
このように、地域によってはバラバラですが、精神障害者への割引は拡大しているようですが、やはり問題は“健常者からすると不公平である”ということです。
おそらく拡大は一時的で、将来的には縮小に転じていくのではないでしょうか?それともさらに拡大していくのでしょうか?おそらく後者を進めていけば、確実に氷河期世代から恨まれると思います。